小池真理子・原作の映画「欲望」
JCOM・シネフィルWOWOWで2019/11/11(月)深夜1:45~4:00に鑑賞した。
11/17(日)深夜4:50~7:00、11/26(火)深夜1:45~4:00にも放映される。
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■ 感想
□ 全編、『豊饒の海』第四巻『天人五衰』をはじめ『仮面の告白』『禁色』など、登場人物が敬愛する作家・三島由紀夫へのオマージュで溢れている。
併せて性描写にも溢れているが、低俗な官能ドラマには感じない。それは小池真理子の原作が文学性をしっかり保っているからだろう。
□ 原作の特に印象的な箇所
p136-137
正巳がそっと私の手から楓の葉をつまみ上げた。「これ、僕が植えた楓かな」「石のベンチのところにあった楓よ。さっき阿佐緒が拾ったの」「僕が植えて、阿佐緒が拾って、きみが持ってる。なんか不思議だね。中学時代が戻ったみたいだ」三角関係でもないのに、と言いかけ、喉まで言葉が出そうになってやめた。三角関係どころか、私たちはその時、それぞれ離れてぽつんと並ぶ、三つの点でしかなかった。
p383
私は本を閉じ、楓の葉を手に取った。年月を経た脆さが手の中に伝わってきたが、葉脈をしっかりと伸ばした葉の、瑞々しいほどの美しい色は昔のままだった。
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■ 原作: 小池真理子(新潮社単行本1997年7月 新潮文庫2000年4月・・・第5回島清恋愛文学賞受賞
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略歴
1952/10/28東京都生まれ。小学校6年の頃、当地(東京都大田区久が原)に住んでいた。 家の近くの東急池上線「千鳥町駅」前の本屋で買ったモンゴメリーの『赤毛のアン』が、読書の原点なのだそうだ。
少女期より父親の勤めの関係で転校が多く、西宮市の私立甲子園学院中等部、市立瓦木中学校、兵庫県立鳴尾高校。都立某高校。仙台市の宮城県立第三女子高校(現・仙台三桜高校)。
当時の世相は、反日共系三派全学連が、砂川闘争/佐藤栄作首相訪南ベトナム阻止の羽田闘争/佐世保での米原子力空母エンタープライズ入港阻止闘争/東京・王子の米軍野戦病院開設阻止闘争/国際反戦デーの新宿騒乱事件など、70年安保闘争の嵐が吹き荒れていた。そんな中で少数派の女子高校生/大学生活動家は、"ゲバルト・ローザ"と呼ばれた。彼女らはニューレフト(新左翼思想体系)/ジェンダー(女性解放)/ゲバルト(暴力闘争)などの戦闘的なテーマを掲げた。
小池真理子は、由緒ある女子師範の伝統を受け継ぐ転校先・第三女子高校で、制服廃止・卒業式ボイコットなどの闘士となり "仙台のゲバルト・ローザ"の異名で知られた。ヘル姿のビラ配り、小説本を抱えタバコを吸いながらクラシック音楽喫茶でバッハ。歌うは吉田拓郎。しかも美少女と来ていた。
しかし全共闘の敗北・・・・・赤軍派の死の彷徨 へと急速に変貌を遂げて行き、ノンポリ学生たちの多くは学園の静寂へと回帰した。
彼女は1970年、一浪して東京の成蹊大学文学部英米文学科に入り、哲学研究会に所属。 その頃から小説も書き始める。
ところが1970年11月25日、ノーベル文学賞候補の三島由紀夫が、「豊饒の海」四部作の第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げて、楯の会メンバーたちとともに自衛隊市ケ谷駐屯地に赴き、 クーデターを煽る演説をした後、自決した。享年46。
1976年、出版社に就職するが1年半で退職し、エッセイ作家となる。1978年、エッセイ「知的悪女のすすめ」(山手書房)でデビュー、フリーライターを経て。 スポーツ紙に顔写真が掲載されるや、一気にマスコミが押し寄せ、翻弄された。 世間からも“悪女”とレッテルを貼られバッシングされる。 1983年、マスコミから距離を持つ決意をし、小説執筆に専念するようになる。
★夫で同業の藤田宜永(よしなが)氏は、1950/4/12福井市生まれ、早稲田大学第一文学部中退、渡仏しミステリーの翻訳、エールフランス勤務7年、1980年帰国。 1983年から二人は同居・事実婚した。
1985年、「第三水曜日の情事」(角川文庫)で小説家に再デビューし、89年にはもう「妻の女友達」(集英社文庫)で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した。
★1990年、1万冊あった蔵書が保管できる住まいを求めて、夫婦揃って軽井沢に移住し、ミステリー~恋愛小説の著作を続ける。1995年、夫婦同時候補で騒がれる。
1995年、先に妻の「恋」(ハヤカワミステリーワールド単行本1995年10月、ハヤカワ文庫1999年4月、新潮文庫2002年12月・・・第114回直木賞受賞。サスペンスを抜け出て、書きたいテーマをものにした作品。 複雑な恋愛模様を緻密なタッチで描いた。
私の関連ブログ
原作 小池真理子 「恋」 のミステリー(2012-09-19)
TBSドラマ化2013年12月16日、主演:石原さとみ 小池真理子の「恋」ドラマ化---あらすじ・キャスト(2013-12-17)
★2001年、夫の「愛の領分」(文藝春秋)が遂に直木賞を受賞した。
その後の小池真理子
1998年、「欲望」(新潮社単行本1997年7月 新潮文庫2000年4月・・・第5回島清恋愛文学賞受賞
2006年、「虹の彼方」毎日新聞社単行本2006年4月、集英社文庫2008年7月・・・第19回柴田錬三郎賞受賞
2012年、「無花果(いちじく)の森」日本経済新聞出版社単行本2011年6月、新潮文庫2014年4月・・・第62回芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)受賞。 映画化2014年6月公開、配給:BS-TBS、監督:古厩智之、主演:ユナク
2013年、「沈黙のひと」文藝春秋社単行本2012年11月、文春文庫2015年5月・・・第47回吉川英治文学賞受賞
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■ スタッフ
脚本: 大森寿美男、川﨑いづみ
監督: 篠原哲雄
音楽: 池頼広
主題曲: 布袋寅泰
製作: 光和インターナショナル
配給: メディア・スーツ
公開: 2005年11月
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■ キャスト
青田類子: 板谷由夏 (※) ・・・都内私立学園(中等部~短大)の大規模図書館司書。
[中学生時: 桂亜沙美]
秋葉正巳: 村上淳・・・類子と幼馴染。交通事故で性的不能者。
袴田(旧姓・安藤) 阿佐緒: 高岡早紀・・・類子と幼馴染。
袴田亮介: 津川雅彦・・・著名精神科医でしかも異常性格。
水野初枝: 中村久美・・・克利の妻で袴田家の家政婦。
水野克利: 利重剛・・・袴田家の秘書。主人・亮介が妻に肉体関係を求めるのを受忍。
能勢五郎: 大森南朋・・・同学園高等部の世界史教師。類子と肉体だけの不倫関係。
吉田日出子・・・亮介の身内(沢木香子)。
中村方隆・内田春菊・・・袴田のパーティ客人夫婦。
水木薫・・・料亭の仲居。
筒井康隆・・・作家。
内山眞人
戸田比呂子
(※)
板谷由夏の略歴
1975年6月22日福岡県北九州市八幡西区生まれ。北九州市立引野中学校、九州国際大学付属高校、福岡女学院大学短期大学部。
1994年、「PeeWee」の専属モデルとして活躍する。
1995年、博多華丸(当時は鶴屋華丸)、おたこぷー(当時はおタコ・プー)と共にSOUTH END×YUKAとしてシングル「SO.TA.I」をリリースした。
1999年、大谷健太郎の目に彼女の姿が留まり、「avec mon mari」(武藤起一事務所1999年) で女優として映画デビューし、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞した。
「パーフェクトラブ!」(フジ1999年)を皮切りに、数多くのドラマ、映画に出演して顔が知られるようになった。
映画
「運命じゃない人」(クロックワークス2005年)で毎日映画コンクール女優助演賞、「欲望」(メディア・スーツ2005年)で主演
「サッド ヴァケイション」(スタイルジャム2007年) で高崎映画祭最優秀女優賞、「クローズド・ノート」(東宝2007年)、「アウトレイジ」(ワーナー/マグノリア2010年)、「ガール」(東宝2012年)、「ホタルノヒカリ 劇場版」(東宝2012年)。
TVドラマ
「ハケンの品格」(日テレ2007年)、「ホタルノヒカリ」(日テレ2007/2010年)、「アイシテル~海容~」(日テレ2009年)、「ギネ 産婦人科の女たち」(日テレ2009年)などがある。
2007年2月22日、スタイリストの古田ひろひこと結婚した。2008年6月に長男、2012年8月に次男を出産、2児の母となる。
2007年より11年間キャスターを務めた「NEWS ZERO」を2018年で卒業することを発表した。
石田ゆり子と親しく、互いのInstagramで交流の様子が度々掲載される。
■ あらすじ
図書館司書の青田類子は、高校教師の妻子ある能勢と不倫をしており、肉体だけの関係に溺れる日々を過ごしていた。
或る日、能勢と出かけた小石川後楽園で、幼馴染の阿沙緒と偶然再会し、彼女の結婚相手であり、
この日の新築記念パーティのホストだった精神科医の袴田を紹介される。
後日催された袴田夫妻の結婚披露パーティに、早速招かれた類子は、そこで同じく中学の同級生だった秋葉正巳とも再会する。
青田類子と袴田(旧姓・安藤)阿佐緒と秋葉正巳とは、東京都大田区立中学校の同級生。
この中学校は五十音順の席順のまま席替えの習慣が無かった関係で、隣り合わせの学級生活が続いた。
正巳は庭師となっていて、今は阿沙緒家の新居で植栽を手がけていた。
類子は当時、三島由紀夫に傾倒する正巳に密かに想いを寄せていた。
今や逞(たくま)しく成長した正巳に対し、思慕が再燃する類子。
だが、正巳の方が阿佐緒に好意を寄せていると知り、自らの想いを口にすることはなかった。
実は正巳には、類子だけが知る或る秘密があった。
彼は交通事故で性的不能者になったため、肉体の喜びを共有することはできない。
類子にはそのことが痛く感じ過ぎるくらいなのだ。
一方の阿佐緒は、父娘ほど年上の夫とセックスレスに悩んでいた。
しかも、その夫が家政婦と浮気をしている疑念に苛(さいな)まれ、精神的に追い詰められて行く。
正巳にも類子にもそのことがひしひしと伝わって来ていた。
類子は正巳に対して心の交流を欲するかに思え、正巳はそれに応えるように見えた。
しかし二人は、何時しか求め合うようになる。