是枝裕和監督の映画『誰も知らない』を初めて鑑賞した。柳楽優弥君はドラマを観てしまう吸引力がある。
J:COM#450ムービープラス
09/02(木)03:15~05:45
今月の他の再映時間は、9/9(木)16:00~18:30、9/22(水)00:00~02:30。
■ 概要
2004年「第57回カンヌ映画祭」審査委員長のクエンティン・タランティーノに「彼の表情が一番印象深い」と言わしめ、若干14歳にして日本人初の主演男優賞を受賞した柳楽優弥。
ラストシーンの虚無を見透かしたような柳楽の眼差しが忘れられない。
ドキュメンタリー出身の是枝裕和の長所が存分に生かされた傑作。
1988年に発生した「西巣鴨子供置き去り事件」(※) をヒントに、是枝が15年の歳月を掛けて映画化した。
(※)
母親が保護責任者遺棄致死罪で逮捕・起訴され懲役3年執行猶予4年の有罪判決を受けた。長男は三女の死 (主犯は遊び友達) に関わっていたとされ傷害致死・死体遺棄罪で東京家庭裁判所に送致され情状酌量の上で養護施設に送致された。長女と次女は母親に引き取られた。
自分だって大人には程遠い(12才役)のに、突然弟妹の責任を押しつけられてしまった明の健気さが胸を突く。
明役の柳楽優弥は1990年生まれ(実年齢は14才)で、この映画が初オーディション・初主演。それでカンヌの男優賞を射止めてしまった。
2019年8月30日からの日本公開に際して来日した審査委員長のクエンティン・タランティーノと柳楽優弥との対談より引用した。
タランティーノ「・・・僕たちが最優秀男優賞を選ぶときに話していたのは、『柳楽優弥が物語をリードする“主演俳優”として、最も優れていたのではないか』ということだった。君はとても自然体で演じていて、とても驚かされたよ。君は“物語を背負って”いたんだ。あなたの演技によって観客は、物語をどう解釈し、感じれば良いのか理解できたんです。映画の中で、君が演じるキャラクター(明)は他の子どもたちの面倒を見ているけれど、それは役どころだけではなく、君自身も主演俳優として皆を引っ張っているように思えた。主演としての役割を全うしていたから、あなたに最優秀男優賞を授与することにしたんだ。・・・」
因みに、この年のパルム・ドール(最高賞)はマイケル・ムーアの『華氏911』。カンヌの最年少受賞は、クリス・メンゲスの『ワールド・アパート』(1987年)でジョディ・メイが柳楽より1歳若い13歳で主演女優賞。
*
■ スタッフ
製作: 「誰も知らない」製作委員会、2004年8月
配給: シネカノン
DVD/Blu-ray販売: バンダイナムコアーツ
脚本・監督: 是枝裕和
音楽: ゴンチチ
挿入歌: 「宝石」作詞・作曲・歌:タテタカコ、アルバム「そら」(2004年7月22日リリース)に収録
*
■ キャスト
[福島ファミリー]
柳楽優弥: 明・・・長男
北浦愛: 京子・・・長女
木村飛影: 茂・・・次男
清水萌々子: ゆき・・・次女
YOU: けい子・・・子供たちを遺棄(放置)したシングルマザー
韓英恵: 水口紗希・・・苛めに遭って登校拒否している女子中学生
[近所のコンビニ]
平泉成: 中延司・・・店長
加瀬亮: 広山潤・・・男性店員
タテタカコ: 宮嶋さなえ・・・女性店員
[アパート大家の吉永家]
串田和美:忠志・・・夫
岡元夕紀子:江理子・・・妻
木村祐一: 杉原博信・・・タクシーの運転手
遠藤憲一: 京橋和孝・・・パチンコ屋の店員
寺島進: 井澤真一・・・少年野球チームの監督
*
■ ロケ地
中野区「哲学堂公園」(松が丘1-34)近くの都道#420中野通り(哲学堂通り)三叉路(松が丘1-29-22)
中野区沼袋のアパート
中野区上高田5-12-7の石段 (西武新宿線新井薬師寺前駅から徒歩10分)
新宿区「西落合公園」(西落合2-19)
新宿区コンビニ「ローソン(旧新撰組)落合南長崎駅前店」(西落合3-1-16)??」(映画での呼称「新撰組桜ケ丘南店」)
新宿区「ミスタードーナツ高田馬場戸山口ショップ」(高田馬場1-34-1)
杉並区「高円寺庚申通り商店街」(高円寺北2丁目/3丁目)、「高円寺純情商店街」(高円寺北2丁目)
杉並区JR高円寺駅(高円寺南4丁目)
大田区羽田空港付近
*
■ あらすじ
都内の或る2DKアパートに、福島けい子 (YOU)、長男・明(柳楽優弥)の母子が引っ越して来る。
アパートの大家(串田和美)には、「夫は出張中で母子二人暮らし」と自己紹介する。
だが、引っ越し荷物のトランクに次女・ゆき(清水萌々子)、次男・茂(木村飛影)が隠れており、人目を忍んで長女・京子(北浦愛)も合流する。
実は、けい子はそれぞれ父親が違う4人の子を持つシングルマザー。
小さな子供が多いと大家がいい顔をしないために嘘をついていたのだった。
出生届を出していないため戸籍も無く存在を認められておらず、保育園にも学校にも行けない "誰も知らない" 子供たち。
昼間、けい子がデパートの紳士服売り場などに働きに出ている間、部屋の中だけで大人しく暮らしていた、
未だ幼い弟妹の面倒を見るのは長男の明だった。
明はけい子に尋ねる。 「いつになったら学校に行かせてくれるの?」
ところが、或る日、男好きのけい子に新しい恋人ができ、アパートを出て行ってしまった。
暫(しばら)くは同棲先から現金書留が送られて来た。
しかし、長男に「妹弟の世話を頼む」という短いメモを残して姿を消してしまう。
前後して4人の部屋も不良たちの溜まり場となって行く。
そしてそのうち現金書留も途絶え、食べものも満足に買えず、やがて電気・ガス・水道も止められてしまう。
已む無く公園の水を飲み水とし、コンビニの男店員から賞味期限切れの弁当をもらったりして凌(しの)いでいた。
YouTube 予告編
しかし、そんなぎりぎりの生活が、遂に破綻(はたん)する時が来た。
事情を知るコンビニの女店員から児童相談所行きを勧められるが、明はどんなに苦しくても兄妹4人で一緒に暮らしたいからと、拒否する。
部屋が不良の溜まり場となり、公園の水を汲む毎日となれば、近隣住民からのクレームによって公的機関が動くのも時間の問題。
荒んだ生活が進む中、末っ子のゆきが足を滑らせて椅子から転落し、そのまま動かなくなり身体は冷たくなってしまった。
明「けさ ゆきのこと さわってみたら .....冷たくて 気持ち悪くって.....なんかそれがすごく なんかすごく すごく.....」
「いつか飛行機を見に行こう」。
ゆきと約束していた明は、紗希と羽田空港の傍へ行き飛行機の見える場所に埋めてやる。
明たちの身に起こっていることなど誰も知らないまま、時はまた過ぎる。