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NHKオーディオドラマ・山本周五郎「こんち午の日」あらすじ、浅草の登場場所

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NHKラジオ第2で朗読劇の山本周五郎「こんち午の日」を連続放送している。

私が住んでいる界隈の地名がしばしば登場して、楽しい。





山本周五郎・原作の短編作品集(アンソロジー6篇)

「江戸味わい帖~料理人篇」

#5「こんち午(うま)の日」


■ 放送概要

NHKラジオ第2放送「オーディオドラマ 朗読」

放送日時: 
初放送・・・2019/11/6(水)~11/15(金) 各09:45~10:00、全8回
再放送・・・2019/11/9(土)・11/16(土) 各21:45~11:00、全2回

朗読: 亀田佳明(文学座)


■ 原作

初出: 月刊誌「オール読物」1956年3月号

新潮社単行本「将監(しょうげん)さまの細みち」に所収1956年12月

新潮文庫「大炊介(おおいのすけ)始末」に所収1965年1月
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□ NHKテキスト:江戸料理研究会・編集「江戸味わい帖~料理人篇」角川春樹事務所/時代小説文庫(アンソロジー)に所収2015年10月 Amazon

 

 


*


■ あらすじ


豆腐屋の婿(むこ)になった塚次が、困難に対峙(たいじ)し家を必死に守る愚直な男の生き方を描く。


生真面目な豆腐屋「上州屋」の奉公人・塚次は、店主の重平や女将のおげんからの信頼も厚く、家付きの娘のおすぎと祝言(しゅうげん)を挙げる。
しかし、気が強く不行状のおすぎは、役者被(かぶ)れのやくざ者・長二郎に入れ上げており、祝言の翌日に金目の物を持ち出し駆け落ちしてしまう。

そんな中、重平が病に倒れ、塚次が代わりに豆腐を作ることになる。
重平のようにと豆腐作りに励む塚次だったが、上手く行かず売り上げは落ちるばかりだ。
それでも塚次は来る日も来る日も仕事に精を出し、試行錯誤の末、蒲鉾(かまぼこ)豆腐を作り上げる。
手伝いに来るようになった重平の姪・お芳の助言もあり、“こんち午の日、かまぼこ豆腐に油揚げ”という呼び声と共に徐々に店も繁盛し出す。

ところが或る日、塚次は外売り中に見知らぬ男に因縁をつけられ袋叩きにされる。
数日後、痛みを堪(こら)え外売りに出た塚次は、長二郎が戻って来たという噂を聞き、或る疑念が頭を過(よ)ぎる。
急いで店に戻ると、おすぎが長二郎と因縁とつけた男・末吉を連れて店を乗っ取ろうとしていて・・・。

 

 

□ 原文における浅草の登場場所



塚次はよく働いた。焦目を付けた蒲鉾豆腐が好評で、顧客《とくい》さきにもよく売れたし、寄合とか、祝儀や不祝儀に、しばしば大量の注文があった。このほかにも「胡麻揚」とか、「がんもどき」などにも、よその店とは違ったくふうをし、「絹漉《きぬご》し豆腐」なども作った。――こういうものは、たいがい金剛院の老方丈に教えられるか、意見を聞くかしてやったものである。塚次はこれらの品を、客にはっきり覚えてもらうため、軒の吊《つ》り看板に「上州屋」※ という屋号を入れた。豆腐屋の看板は単に「豆腐」と書くのが一般で、屋号を付けるのはごく稀《まれ》だったが、彼は売子たちにも「上州屋でござい」と云わせ、自分もそう呼んでまわった。――へい、上州屋でござい、自慢の蒲鉾豆腐にがんもどき、胡麻揚に絹漉し豆腐。という呼び声であった。おすぎの出奔がわかってから、塚次はしょうばいに出たさきでよくからかわれた。よその店の売子たちにも、意地の悪い皮肉を云われたし、顧客さきでもたびたび笑い者にされた。田原町二丁目の裏店に。亀造という馬方がいたが、これは真正面から嘲笑した。「おめえが嫁に逃げられたってえ豆腐屋か」と初めに亀造は云った、「嫁が男をこしらえて逃げたのに、おめえ平気な面で居坐ってるのか、へ、野郎のねうちも下ったもんだな」。

「聖観音宗総本山金龍山浅草寺」の寺僧22ケ院のひとつ「金剛院」(現・台東区浅草2-31-6)
※ 
浅草西仲町の豆腐屋「上州屋」は現在では存在しないが、その界隈には杵屋通りの会席料理「茶寮一松」向かいに「市川食品」(現・台東区雷門1-14-3)という豆腐卸が在る。

田原町2丁目裏の馬方 (現・雷門1丁目/2丁目)



「この辺をうろつくなってんだ」と男は銜えていた楊枝を吐きだした、「よく覚えておけ、こんど来やあがったら足腰の立たねえようにしてやるぞ」忘れるなよ、と男は喚いた。場所がらのことで、すぐまわりに人立ちがした。しかし誰も口をきく者はない、男はみんなを凄《すご》んだ眼で見まわしてから、本願寺のほうへと、鼻唄をうたいながら去っていった。

「浄土真宗東本願寺派本山東本願寺」(現・台東区西浅草1-5-5)



その男は三十がらみで、めくら縞の長半纒《ながばんてん》に鉢巻をしめ、ふところ手をしたまま、塚次の前に立塞《たちふさ》がった。塚次は黙ってあとへ戻り、そのまま伝法院のほうへ廻った。――午後には雷門のところで、翌日は正智院のところで、そのときによって場所も相手も違うが、同じような文句で威しつけ、抗弁でもすれば、すぐにも殴りかねないようすだった。

「聖観音宗総本山金龍山浅草寺」の本坊及び回遊式庭園「伝法院」(現・浅草2-3-1)

「聖観音宗総本山金龍山浅草寺」の寺僧22ケ院のひとつ「正智院」(現・浅草2-31-3)



九月下旬の或る日、――午後のしょうばいに出た塚次は、花川戸の裏でまた威かされた。相手は初めに田原町で会った男で、よれよれになった双子唐桟の袷を着、月代も鬚《ひげ》も伸び放題の、ひどくよごれた恰好をしていた。相手があのときの男だと知ると、塚次はすばやく荷をおろし、「なんです」と云って天秤棒《てんびんぼう》を手に持った。

花川戸の裏 (隅田川畔の現・台東区花川戸1丁目/2丁目)



「それで、おすぎ[#「すぎ」に傍点]さんが承知なら、――と答えた」と彼は続けた、「おすぎ[#「すぎ」に傍点]さんは承知だった、というのは、そのときもう男と駆落ちをする手筈ができていたんだろう、盃をして三日めに逃げだしてしまった」「わかったわ、よくわかったわ」「私はこの家を守る」と塚次は云った、「金剛院の方丈さんにも云われたが、私はやっぱりこの家を守りとおすよ」お芳はまた鳴咽しはじめたが、袖で口を押えたまま「もしおすぎ[#「すぎ」に傍点]ちゃんが帰ったらどうするの」と訊いた。持出した金や品物がなくなり、暮しに困れば帰って来るだろう。叔父や叔母は「親子の縁を切った」と云っているけれども、帰って来れば家へ入れるに違いない。自分にはそれがはっきりわかっている、その証拠がある、とお芳は云った。

「聖観音宗総本山金龍山浅草寺」の寺僧22ケ院のひとつ「金剛院」(現・浅草2-31-6)



そして立ちあがって、「おっ母さん出直して来ますよ」とやさしく云った。彼女は素足で、その爪が伸びて垢《あか》の溜まっているのを、塚次は見た。おすぎ[#「すぎ」に傍点]が出てゆくと、おげん[#「げん」に傍点]は泣きだした。そして、泣きながら「ねえ塚次」とおろおろ云った。塚次はそれに答えようとしたが、ひょいとなにか気がついたふうで、店へとびだしてゆき、伊之吉を呼んで耳うちをした。駒形に目明しで「小六」という親分がいる、そこへいってこれこれと頼んで来てくれ、と囁いた。そうして、伊之吉が駆けだしてゆくと、すぐに六帖へ引返して、おげんの前に坐った。「云ってちょうだい」とお芳がふるえ声で囁いた、「なあに」「お芳さん」と塚次は吃り、それから突然、妙な声でうたうように云った、「――こんち午の日、蒲鉾豆腐に油揚がんもどき……」お芳はあっけにとられた。「これからこういう呼び声で廻るんだよ」と塚次は、「午の日だけね、いいかい、――こんち午の日、蒲鉾豆腐に油揚……」お芳はぎゅっと塚次の手を握りしめた。

目明し駒形の小六 (現・台東区駒形1丁目/2丁目または寿3丁目/4丁目付近)


*


■ 登場人物

豆腐屋「上州屋」(浅草西仲町※) の娘婿・塚次

豆腐屋の娘・おすぎ

豆腐屋の女将・おげん
豆腐屋の主人・重平 

重平の姪・お芳 
仏具師「伊能屋」(田原町二丁目) の娘・おもん

やくざ者・長二郎
長二郎の手下・末吉


※豆腐屋「上州屋」(浅草西仲町)のモデルではないが、雷門地区での豆腐屋と言えば、「市川食品」(台東区雷門1-14-3。杵屋通りの会席料理「茶寮一松」向かい)が在る。





<参考>

■ テレビドラマ

「山本周五郎 人情時代劇」

2015/10/6(火)~2016/3/15(火)までの第1・第2火曜日にBSジャパンで放送された、山本周五郎の短編小説を原作としたテレビドラマ。

第6話「こんち午の日」2015/12/15(火)21:00~21:54放送


□ スタッフ

脚本:横田理恵
監督:山嵜晋平
音楽:諸橋邦行 
製作:BSジャパン、ドラマデザイン社


□ キャスト


豆腐屋「上州屋」の娘婿・塚次・・・伊嵜充則

豆腐屋の娘・おすぎ・・・大西礼芳

豆腐屋の女将・おげん・・・大沢逸美
豆腐屋の主人・重平・・・岡本信人 

重平の姪・お芳・・・水原ゆき 

やくざ者・長二郎・・・佐藤汛
長二郎の手下・末吉・・・札内幸太


 


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