Quantcast
Channel: ちとちのなとちのブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2687

是枝監督作品「三度目の殺人」の真実を推理する!!

$
0
0

 

是枝裕和・監督作品「三度目の殺人」

 

 

 

フジテレビ「土曜プレミアム」10/13(土)21:00~23:30のテレビ放映されたので録画して鑑賞した。

是枝作品には稀な"法廷推理サスペンスドラマ"であり、実に難解な内容だった。

そこで私なりに"真実"と是枝氏の"訴求点"を推理してみた。


< 但し、内容に確信が持てませんので、コメントを受けることができません。>


*


裁かれる側の三隅高司(58才、役所広司)は、バブル経済真っ只中の30年前・1986年(28才時)、郷里の北海道留萌市で「放火強盗+2人殺害事件」を犯した。
死刑相当の犯罪ながら、初犯であること、被害者2人が経済弱者相手の悪質金貸しであったことが情状酌量されて、無期懲役の判決となった。
当時捜査した刑事の渡辺(品川徹)は三隅のことを「感情のない空っぽの器(うつわ)」のような人物 (怨恨からではなく衝動的な犯行の意)と評した。
また当時判決を出した裁判長の重盛彰久(橋爪功)は偶然にも、この映画の主人公である弁護士・重盛朋章(46才、福山雅治)の実父!!そして父・彰久は三隅のことを「獣みたいな人間」と評し、恰(あたか)も生まれつきの殺人鬼(DNA)のような印象を持っていた。
尚、この一度目の殺人は、物証、目撃証言、自白(自供)などの詳細は明らかにされていないので、それら証拠がこの映画の訴求点ではなさそう。


*


三隅は無期の刑期満了前、30年間服役後に仮出所(仮釈放)を許されて保護観察処分のまま、川崎市の食品加工会社・山中食品社長:山中光男(小野孝弘)に身元引受され、臨時雇の社員となった。
山中食品の会社経営は苦しく、社長の妻・美津江(斉藤由貴)は平素から夫の性欲を拒んでまで経営に四苦八苦していたため、夫は遂に娘・咲江(16才、広瀬すず)を手に掛けてしまった。
美津江は新たに雇い入れた三隅に格安材料仕入れによる偽装作業をやらせようと夫に持ち掛けた。
美津江は、三隅にロクでもない夫殺しをさせようと思い付き、色仕掛けで教唆し8000万円の保険金殺人の実行謝礼1000万円の前金50万円が銀行口座に振込まれた。

 




*



 

三隅は、足が不自由な咲江と出会ったことで、故郷の娘と過ごした日々、「4才(現在は36才)の娘と雪遊びをしたことを思い出している」。
三隅が多摩川の河原で焚き火をしている時、咲江と2人だけで出会った。その日は咲江の誕生日だったため三隅が提案して作った雪のケーキの前で、咲江は光明を感じ取った。
そして咲江は父から性的暴行を受けた事実を告白した。
三隅は偽装作業を拒んだため解雇を告げられた。
次は死刑と分かりながら山中社長の殺害を決め、身辺も整理したが、これは美津江のためではなく咲江に捧げるものと決心した。
彼は「空っぽの器」でも「獣のような人間」でも無くなっていた。

 




*


後日、咲江は三隅と共謀し、父または母が仕組んだ密会だと見せ掛けるため「例の件、よろしく頼む」というメールを送信した。
父を多摩川の河川敷へと誘って油断していたところを鈍器で撲殺した。
物陰に潜んでいた三隅は、咲江を犯行現場から引き離し、単独で現場に引返してガソリンを持ち込み咲江の犯行の痕跡を消そうと死体を焼却した。物取りの犯行に見せてガソリンを撒(ま)いた後で山中の財布を抜き取った。その際、自分の手に火傷(やけど)を負わせることも忘れなかった。


*


重盛朋章は、家庭を振り返らないで法廷闘争を繰り返す敏腕弁護士だ。
妻とは離婚調停中であり、娘・重盛結花 [16才、蒔田彩珠(まきたあじゅ)] ともうまく行っていない。
「真実は誰も分からないのだから、メリットのある結果を出す」というモットーで、「真実」は二の次で判決の勝敗に拘(こだわ)る弁護士。
「容疑者への理解や共感も必要ない」というポリシーで、依頼人の要求が減刑であれば、事件の「真相」は追求せずに減刑することだけを念頭に証拠集めや調査を行う。


*


重盛にとって、これは有り触れた裁判の筈だった。
重盛の弁護士仲間・ヤメ検の摂津大輔(吉田鋼太郎)、その部下で研修中の軒弁(のきべん)・川島輝(満島真之介)を引き連れての法廷。
被疑者の三隅が実行犯であると示す直接の物的証拠は無く、傍証と自白だけである。それは咲江が実行した証拠を隠滅したから、その筈である。


*


証拠調べの段階で早速、検察官の篠原一葵(ささばら・いつき、市川実日子)が掴んでいない、被害者・山中の財布はガソリン臭が残っていたことに気付いた。
これにより強盗殺人・遺体損壊の罪が、一気に殺人窃盗・遺体損壊の罪に落とせ、死刑を免れることになる。
身元引受人でありながら食品偽装作業を強要した、恨みによる殺人の後に "偶々(たまたま)" 財布を盗んだ窃盗であるというシナリオ。身勝手な金銭目的での殺人より、恨みのある殺人の方が罪が軽くなる。


*


更に有ろうことか、三隅が週刊誌記者の接見で「社長の妻・美津江に頼まれ保険金目的で殺した」と独占告白した。
これで「飽くまでも美津江が主犯格」と起訴事実を公判途中で変更できる。
「金銭目当てという動機」を怪しんでいた重盛にとって、それは「本当の動機」であるように思えた。
三隅には足の不自由な娘がいる。咲江に娘の姿を重ねて義憤に駆られたのかもしれないと。

 




*


若い篠原検事は「裁判やり直しだ」と叫ぶが、上司の公判部長検事と裁判長の小野稔亮(井上肇)は、談合と阿吽(あうん)の呼吸(公判前整理手続、司法と言う名の船)によって新たな証拠調べをネグった。
要するに二転三転する被告・三隅の証言に、最悪の心証となった判事の「訴訟経済性」という本末転倒の方針により、「犯人性」の真相究明が握り潰(つぶ)され、三隅の否認は全て合理性が無いと判断されてしまった。重盛も最重要な咲江の暴露を回避してしまった。
法廷は真実を解明する場所では無かったのだ。


*


敏腕の筈の重盛朋章弁護士は、今回の裁判だけは心を動かされ掛けた。
しかし、自分の娘・結花が見せた女の演技「嘘の涙」、元刑事の渡辺の三隅評「空っぽの器」及び元裁判長の父・彰久の三隅評「獣のような人間」---が引っ掛かって、真相究明の壁を乗り越えられず終い。
そのような主人公のモヤモヤ感、本作の後味悪い結末によって、福山さんの珍しい好演も吹っ飛んでしまい受賞を獲得できなかった。
そして相変わり無く現在の法廷体制では、人間性の追求も真実の解明もできないと再確認したに過ぎなかった。
たとえ「裁判員裁判制度」が導入されたとしても、それは刑事裁判の一審(地方裁判所)だけでしか開放されていず、しかも判事から指し示される過去の「判例」による結論誘導が厳然と有るのだ。


*


刑事裁判は戦前も戦後も変わり無く、警察・検察捜査の不備から物証に乏しくて、傍証・目撃証言・自白に依存しながら有罪を宣告し続けて来ている。
自白には誘導や強要が付き纏うし、プロ野球におけるリクエスト制度採用によって審判の眼も観戦の眼も如何に当てにならないかということが分かって来て、人間の目撃の曖昧さを知らされる昨今である。


*


最後に、「三度目の殺人」とは、一度目が留萌事件、二度目が川崎河川敷事件、三度目が司法と言う名の船で行われる死刑判決であろう。
だがしかし、私は死刑廃止論には反対である。
物証不足の起訴を警察・検察が続け、冤罪(えんざい)を裁判所が生み続けて来たから、死刑を廃止するのは本末転倒である。
人の生命を奪い取る殺人を犯すのは「絶対悪」であり、殺人DNAを摘み取って罰し続けねばならない。その代表が国家による"戦争""核開発""原発"という大量殺戮(さつりく)だ。

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2687

Trending Articles