「日の暮れた村」を読んだ。初めてのカズオ・イシグロ作品。
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カズオ・イシグロの短編小説第四作
「日の暮れた村」 (原題「A Village After Dark」)
■ 原文
ニューヨーカー2001年5月21日号に掲載。https://www.newyorker.com/magazine/2001/05/21/a-village-after-dark
元々は、1995年の長編小説第四作「充たされざる者」(原題「The Unconsoled」)の下準備として書かれていたもの。
■ 日本語版
海外文学短編アンソロジー「紙の空から」(柴田元幸・翻訳、晶文社単行本2006年11月)に収録。本文24ページ + チエ・フエキ画の絵3ページ。
・・・編者と翻訳は、ポール・オースターやリチャード・パワーズなど現代アメリカ文学の翻訳家として知られる柴田元幸(アメリカ文学研究者、翻訳家。東京大学名誉教授)。
この本には、柴田元幸さんが選んだ14の旅の物語が収められている。
「世界文学全集3<06>短篇コレクションⅡ」(池澤夏樹・編、河出書房新社単行本2010年11月) に収録。
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■ あらすじ
かつて、その村を希望に満ちた熱狂が覆(おお)っていた。
村の人間の方は何時までも昔のことを覚えている。
しかし主人公のフレッチャーはすっかり変わって何も覚えていない。
何時とも知れぬまま色褪(あ)せ、もはや漠然としたものでしかない過去の栄光の記憶。
*
主人公の男フレッチャーは、日の暮れた直後に小さな村に戻って来た。
かつて自分が暮らし村人たちに大きな影響を与えていた村だとは、到底、信じられなかった。
だが今は、若くはなく見すぼらしくなっている。
石造りのコテージが並ぶ狭い街路の中で方向を見失う。
広場にさえ辿り着ければと、場所を尋ねようと一軒のコテージのドアをノックする。
老いた彼を迎える村人たちは、直ぐにあのフィッシャーだと気付いた。
しかし決して優しくはなかった。
一人の女が「何であんな人に夢中になったのかわからないわ。いまじゃまるで浮浪者じゃない」と言う。
さらにもう一人、中年の男が「子供のころの君とのき合いのことを連中に話したりする。『昔いじめていた、言いなりになってた痩せっぽちの子供のことなんか覚えているはずがないさ』」と言った。
皆、あの日の熱に浮かされたような夢から醒(さ)めてしまっていた。
彼に熱い期待の眼差しを向けるのは、もはや他に希望を持つことのできない若者たちだけらしい。
実のところ、彼自身の記憶ももう随分、曖昧(あいまい)になっていたのだ。
男は道に迷った挙句に知らないバス停で待つ。
旅の終わりに待っている歓迎のことを想い、憧れ、崇(あが)める若い人たちの顔を想うと、自分のなかのどこか奥深くで楽天が息づくのが感じられた。