Quantcast
Channel: ちとちのなとちのブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2687

カズオ・イシグロの長編小説「日の名残り」あらすじ

$
0
0

 

■ 長編小説「日の名残り」

 

著者: Kazuo Ishiguro

原題:「The Remains of the Day」
刊行:「Faber and Faber」社1989年5月。

 

Amazon


発刊当時の書評:
“An intricate and dazzling novel.” —The New York Times
“Brilliant and quietly devastating.” —Newsweek 
“A virtuoso performance ... put on with dazzling daring and aplomb.” —The New York Review of Books
“A perfect novel. I couldn’t put it down.” —Ann Beattie (born September 8, 1947, Washington, D.C., U.S.) 


1989年、英国最高の文学賞「ブッカー賞」を受賞。

斜陽化して行くイギリス貴族の執事を描くことを通して、失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ。
英国調の静謐(せいひつ)で繊細な文体が漂う。


■ 土屋政雄・日本語訳

中央公論社単行本1990年7月
中央公論社中公文庫1994年1月

□ 早川書房ハヤカワepi文庫2001年5月

 

 

Amazon

 

カバーのキャッチコピー


品格ある執事の道を追求し続けて来たスティーブンスは、短い旅に出た。
美しい田園風景の道すがら様々な思い出が過ぎる。
長年、仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑(かがみ)だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の闇に邸内で催された重要な外交会議の数々---過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸の中で生き続ける。
失われつつある伝統的な英国を描いて、世界の中で大きな感動を呼んだ、英国最高の文学賞・ブッカー賞受賞作。



■ あらすじ

□ 主な登場人物

スティーブンス - ダーリントンホールの執事(語り手)。
ダーリントン卿 - ダーリントンホールの前の主人。伯爵。
ミス・ケントン(ベン夫人) - ダーリントンホールの元女中頭。
ファラディ - ダーリントンホールの現主人。アメリカ人。



物語は第二次世界大戦が終わって十数年が経った1956年の「現在」。
主人公のスティーブンスが1920~30年代にかけてダーリントン卿に仕えていた時代を回顧する。
執事であるスティーブンスは、新しい主人、ダーリントン卿の亡き後にダーリントンホールを買い取ったアメリカ人の富豪ファラディ氏の勧めがあって、ファラディ氏の車を借りてイギリス西岸のクリーヴトンへと小旅行に出かける。
しかし、ファラディ氏に売り渡される際に、多くの熟練スタッフたちが辞めて行き、ダーリントンホールは深刻な人手不足を抱えていた。


そんなスティーブンスのもとに、かつて共に働いていたベン夫人から手紙が届く。
ベン夫人人とは、スティーブンスと屋敷を切り盛りしていた女中頭のミス・ケントンだった。
手紙には、現在の悩みとともに、昔を懐かしむ言葉が綴(つづ)られていた。
彼女に職場復帰してもらうことができれば人手不足が解決する。
そう考えたスティーブンスは、彼女に会うために旅に出ることを思い立ったのだ。
だが彼には、もうひとつ問題があった。それは、彼女がベン夫人となる前のミス・ケントンと呼ばれていた時代のものだった・・・。


旅の道すがら、スティーブンスは、敬愛する主人ダーリントン卿がまだ健在で、ミス・ケントンとともに屋敷を切り盛りしていた時代のことばかり思い出していた。
「偉大な執事とは何か?」と自問自答を重ねる。
スティーブンスは、自分の父親の執事人生からのエピソードを引用しながら、その「品格」を語る。
「名家に雇われていること」「執事としての職業的な威信が雇主の人間的価値の大きさに比例して決まってくる」「高徳の紳士ダーリントン卿にお仕えしたことで、国家の大事のまっただなかで、この世界という車輪の中心に、夢想もしなかったほど近づくことができた執事人生」
---という自負を持ち誇りに思う。しかしながら、
「みずからの地位にふさわしい品格の持ち主であること」「品格の有無を決定するものは、みずからの職業的なあり方を貫き、それに堪える能力だと言える」
「執事の任務は、ご主人様によいサービスを提供することであって、国家の大問題に首を突っ込むことではない。自分の領分に属する事柄に全力を集中すること」

===中略===

ベン夫人と再会を済ませたスティーブンスは、不遇のうちに世を去ったかつての主人や失われつつある伝統に思いを馳せながら、涙を流す。
やがて前向きに現在の主人に仕えるべく決意を新たにする。


エピローグ「六日目---夜 ウェイマスにて」は、原文の印象に残った箇所を抜粋したい。

「結局、時計をあともどりさせることはできませんものね。架空のことをいつまでも考えつづけるわけにはいきません」(p343)
バスが止まる瞬間まで、私はミス・ケントンのほうを見ることができませんでした。最後に視線を合わせたとき、ミス・ケントンの目に涙があふれているのが見えました。(p344)
「わしに言わせれば、あんたの態度は間違っとるよ。いいかい、いつも後ろをばかり向いてるから気が滅入るんだよ」「人生、楽しまなくちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。夕日がいちばんいい」。(p350~351)
「私どものような人間は、何か真に価値あるもののために微力をつくそうと願い、それを試みるだけで十分であるような気がします。そのような試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、その覚悟を実践したとすれば、結果はどうあれ、そのこと自体がみずからに誇りと満足を覚える十分な理由となりましょう」(p351~352)
「本腰を入れて、ジョークを研究すべき時期にきているのかもしれません。人間どうしを温かさで結びつける鍵がジョークの中にあるとするなら、これは決して愚かしい行為とは言えますまい」「明日ダーリントン・ホールに帰りつきましたら、私は決意を新たにしてジョークの練習に取り組んでみることにいたしましょう」(p353)



■ 書評


□□ 丸谷才一の解説(文庫本巻末)

□ 彼が1990年11月「週刊朝日」に寄稿した書評(抜粋)

「主人公スティーブンスは執事である。彼は以前、政界の名士であるダーリントン卿に仕えていて、有能な執事として自他ともに許していた。
しかし彼には第二次世界大戦前夜から戦後にかけてのダーリントン卿の重大な失敗を救うことなどもちろんできなかったし、そして自分自身の私生活もまた失敗だったと断定せざるを得ない。旅の終りにそのことを確認して、スティーブンスは海を見ながら泣く。夕暮れである。桟橋のあかりがともる。
『日の名残り』はそれゆえ、まるでウッドハウスのジーヴズもののきれいな裏返しのようにわたしには見えた。つまりイシグロは大英帝国の栄光が失せた今日のイギリスを諷刺している。ただしじつに温和に、優しく、静かに。それは過去のイギリスへく讃嘆ではないかと思われるほどだ。
ダーリントン・ホールはいまアメリカの富豪の所有に帰し、スティーブンスは彼に雇われているのだが、このアメリカ人は親切な男で、自分が帰国して留守のあいだ、数日イギリスを見物しろと執事にすすめる。その旅で彼が眺める田園風景と同じくらい、古いイギリスの倫理は肯定されているようだ。

「しかし、スティーブンスが信じていた執事としての美徳とは、実は彼を恋い慕っていた女中頭の恋ごころもわからぬ程度の、人間としての鈍感さにすぎないと判明する。
そして彼が忠誠を献げたダーリントン卿とは、戦後、対独協力者として葬り去られる程度の人物にすぎなかった、という認識と重なり合う。
現代イギリスの衰えた倫理と風俗に対する洞察の力は恐しいばかりだ。」

「イシグロは、悲劇を語りながら、ユーモアを忘れない。わたしはその余裕のある態度を望み見て、川端康成にではなくディケンズに師事していることを喜んだ。
海を見ながら泣く執事に、見ず知らずの男は、今朝一ぺん鼻をかんだきりだと言ってハンカチを貸そうとする。執事はそれを断ってから、むやみに冗談を言うことが好きなアメリカ人の雇い主のため、冗談の練習をしようと思い立つ。」

□ 新しく寄稿した書評(抜粋)

「スティーブンスはダーリントン卿に心服していた。尊敬すべき人物だと信じ切っていた。そういう敬愛というよりはむしろ畏怖の対象である貴族への評価が次第に崩れていく。
この従僕はまた私的な悲劇を持つ。女との関係を回顧して、自分が勿体ぶってばかりいて人間らしく生きることを知らない詰まらぬ男だったという自己省察に到達するのだ。
この公私両方の認識の深まり方につきあうのが『日の名残り』を読むということなのである。」

「注目に価するのは、その時間構造である。まずアメリカ人がイギリス旅行をすすめてくれる所からはじまって、スティーブンスの旅のなかに彼の過去が織り込まれる。それを思い出し、自分の生き方を悔いて、旅の終りに彼は泣く。
現在から過去へ赴き、過去から大過去へとさかのぼったり現在に引き返したりする入り組んだ時間の扱い方はまことに見事なもの。」

「イシグロがイギリス小説に新しくもたらしたものは、時間というもの、歴史というものの、優美な抒情性かもしれない。わたしは、男がこんなに哀れ深く泣くイギリス小説を、ほかに読んだことがない。」


*


□ 土屋政雄の訳者あとがき(文庫本巻末)

「日本英文学会第73回大会(2001/5/18,19)における『イギリス文学から英語文学へ』というシンポジウムでは、イシグロの作品を縦軸、ハニフ・クレイシらの作品を横軸にして、最近の「英語文学」の問題を探る試みがある。」






■ 映画化作品: 英米合作のハリウッド映画「日の名残り」

原題「The Remains of the Day」
配給: コロンビア トライスター映画
公開: 米国1993年11月、日本1994年3月

 

Amazon

 

 

カズオ・イシグロは1999年のソルボンヌ大学での対談で、映画化作品について質問され、原作と「異なる芸術作品」だが「いとこ」のようなものだと述べ、結構気に入っている旨を述べている。


□ スタッフ

監督: ジェームズ・アイヴォリー
脚本: ルース・プロワー・ジャブヴァーラ、ハロルド・ピンター(クレジット無し)
撮影: トニー・ピアース=ロバーツ
音楽: リチャード・ロビンズ

ロケ地: 世界遺産の街Bath(バース)から6マイル(車で20分)北のDyrham Park (ディラム・パーク、ナショナルトラスト所有)、10マイル北のBadminton House(バドミントン・ハウス)など。


□ キャスト

アンソニー・ホプキンス・・・主人公の執事 ジェームズ・スティーヴンス。
ピーター・ヴォーン・・・主人公の父親 ウィリアム・スティーヴンス。

エマ・トンプソン・・・元女中頭のミス・ケントン、現・ベン夫人。
ティム・ピゴット・スミス・・・元下僕のベン。

ジェームズ・フォックス・・・前主人のダーリントン卿。
クリストファー・リーヴ・・・現主人のアメリカ人富豪ファラディ。

ヒュー・グラント・・・ダーリントン卿が名付け親になった青年 カーディナル。 


□ 受賞歴

アカデミー賞・・・8部門(作品・監督・脚本・主演男優・主演女優・作曲・衣装デザイン・美術)にノミネートされた。


□ あらすじ・・・出典 https://movie.walkerplus.com/mv10702/

英国の名門家に一生を捧げてきた老執事が自身の半生を回想し、職務に忠実な余り、断ち切ってしまった愛を確かめる様を描いた人間ドラマ。

1958年。
オックスフォードのダーリントン・ホールは、前の持ち主のダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)が亡くなり、アメリカ人の富豪ルイス(クリストファー・リーヴ)の手に渡っていた。
かつては政府要人や外交使節で賑わった屋敷は使用人も殆ど去り、老執事スティーヴンス(アンソニー・ホプキンス)の手に余った。
そんな折、以前に屋敷で働いていたミス・ケントン(エマ・トンプソン)から手紙をもらったスティーヴンスは、彼女の元を訪ねることにする。
離婚を仄(ほの)めかす手紙に、有能なスタッフを迎えることができるかもと期待し、それ以上にある思いを募らせる。

彼は、過去を回想する。

1938年。
スティーヴンスは勝気で率直なミス・ケントンをホールの女中頭として、彼の父親でベテランのウィリアム(ピーター・ヴォーン)を執事として雇う。
スティーヴンスはケントンに、父には学ぶべき点が多いと言うが老齢のウィリアムはミスを重ねる。
ダーリントン卿は、第二次大戦後のドイツ復興の援助に力を注ぎ、非公式の国際会議をホールで行う準備をしていた。
会議で卿がドイツ支持のスピーチを続けている中、病に倒れたウィリアムは死ぬ。

1936年。
卿は急速に反ユダヤ主義に傾き、ユダヤ人の女中たちを解雇する。
当惑しながらも主人への忠誠心から従うスティーヴンスに対して、ケントンは卿に激しく抗議した。
2年後、ユダヤ人を解雇したことを後悔した卿は、彼女たちを捜すようスティーヴンスに頼み、彼は喜び勇んでこのことをケントンに告げる。
彼女は彼が心を傷めていたことを初めて知り、彼に親しみを感じる。
ケントンはスティーヴンスへの思いを密かに募らせるが、彼は気づく素振りさえ見せず、あくまで執事として接していた。
そんな折、屋敷で働くベン(ティム・ピゴット・スミス)からプロポーズされた彼女は心を乱す。
最後の期待をかけ、スティーヴンスに結婚の決めたことを明かすが、彼は儀礼的に祝福を述べるだけだった

1958年。
20年ぶりに再会した2人。
孫が生まれるため仕事は手伝えないと言うケントンの手を固く握り締めたスティーヴンスは、彼女を見送ると、再びホールの仕事に戻った。

 




 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2687

Trending Articles