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伊坂幸太郎の「陽気なギャングは三つ数えろ」を読んだ

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■ 「陽気なギャングは三つ数えろ」

(英題「A cheerful gang, count three.」)

 

伊坂幸太郎・原作
長編サスペンス・書き下ろし


祥伝社ノン・ノベル2015年10月発売。

人気シリーズ「陽気なギャング」の第三作(9年ぶりの最新作)。

 

Amazonで購入

 

 

<続く>

 


◇-------------------------------------------

 


□ 第一作「陽気なギャングが地球を回す」

 

 

ノン・ノベル2003年2月発売、祥伝社文庫2006年2月8日発売。
松竹映画化、2006年5月公開(監督:前田哲)

 


【概要 #1】

 

 

成瀬:大沢たかお・・・確実に他人の嘘を見抜く名人---人間嘘発見器の市役所で働く・リーダー、
響野(きょうの):佐藤浩市・・・即興演説の達人の喫茶店主、
久遠(くおん):松田翔太・・・天才スリの20歳の青年、
雪子:鈴木京香・・・正確無比の体内時計の持ち主シングルマザー、

---四人組の正体は「人を傷付けない」ことをポリシーとする銀行強盗、組織されたギャング団。
その戦歴は百発百中……のはずが、思わぬところで誤算が生じ、せっかくの売り上げを逃走中の現金輸送車強盗犯に横取りされてしまうことに。そこで彼等は奪還に動こうとする。

 

 

*

 

 

□ 第二作「陽気なギャングの日常と襲撃」

 

 

ノン・ノベル2005年5月発売、祥伝社文庫2009年8月発売。

 


【概要 #2】

 

 

嘘を見抜く名人・成瀬が遭遇したのは、マンションや一軒家を狙う賊・刃物男騒動、
演説の達人・響野が遭遇したのは、お酒で記憶を失った男の「幻の女」探し、
天才スリ・久遠が遭遇したのは、借金を背負い殴打される中年男騒動、
正確な体内時計を持つ女・雪子が遭遇したのは、送り主不明の謎の演劇招待券の真意、

---天才強盗四人組が巻き込まれた四つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。
事件はそれぞれの結末と集約へと向かう、更なる事件へと発展して行く。 

 

 

◇------------------------------------------

 

 

<続き>

 


■ 「陽気なギャングは三つ数えろ」

 


【あらすじ #3】

 


嘘を見抜く名人・成瀬、天才スリ・久遠、演説の達人・響野、二年振りに響野・久遠・成瀬の三人が銀行を襲撃。

響野の銀行にいる人達の注意を惹き付ける演説が冴え渡る中、久遠と成瀬がまんまと4千万円をせしめた。
彼らの手口は、窓口カウンターまで最小限の変装で近づき「警報装置を使わせず、金を出させて、逃げる」というシンプルなものだ。

 


だが銀行を去ろうとした時、警備員の一人が警棒を投げつけて来て、それが久遠の左手に命中。無事に逃走は出来たものの久遠は負傷してしまう。

 


そしてお金の奪取が終われば正確な体内時計を持つ女・雪子が逃走用車両を乗り付けて全員それに乗って逃走で、いつも通り上手く行くはずだった。

 


小さな失敗をきっかけに、慎一が誰かに尾行されたり久遠が当たり屋に因縁をつけられたり成瀬が痴漢犯に仕立て上げられそうになったりと、四人組は面倒に巻き込まれる。

 


逃走から10日経った頃、シリーズの最初は小学生だった雪子の息子・慎一も今や大学生になっていて、アルバイトとして働くホテルのラウンジに四人が集合。

 


このホテルでは火尻(ひじり)が登場し、久遠とは結構言葉を交わすことになる。メディアから姿を消したアイドル宝島沙耶を追う記者・火尻の部屋に何者かが侵入するという事件が起き、久遠がこれに遭遇してしまい暴漢から救うことになる。
火尻は事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者。

加害者も被害者も関係なく、面白いエピソードがあれば掘り出し、対象を自殺に追い込むような記事を平気で書く。

 


史上最強の天才強盗四人組に強敵あらわる。

火尻は宝島沙耶というアイドル兼女優のスクープを撮るためにこのホテルに来ていた。
沙耶はしばらく前から雲隠れしていて、なぜ雲隠れしていたのか。

沙耶にとって恩人である近所のお姉さんが自殺して死んだのも火尻のせいだと分かる。諸悪の根元、火尻の想像以上の最低ぶりが明らかになる。

 


火尻はホテルで久遠と鉢合わせた時のエピソードから、火尻は、左手の傷から久遠が銀行強盗でないかと疑い、四人とその関係者を特定。

 


火尻はそこのカジノに借金がたくさんあり、大桑に「あいつらから金を巻き上げて借金の返済に充ててくれ」と言っていた。
正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。
火尻が四人に仕掛けて来ていた。やがて大桑というカジノのリーダーの存在が浮かび上がる。
火尻は、四人のプライバシーをネタに火尻が裏カジノで作った借金の肩代わりを要求する。ゆとり世代の裏カジノの運営者たちは、底知れぬ恐ろしさを秘めており、命の危機から火尻はハイエナの如く四人を強請(ゆす)る。

 


四人組は、火尻の書いた身勝手な記事の被害者の協力を得て火の粉を振り払おうと奮闘する。必死に火尻の急所を探る。
蛇蝎(だかつ、ヘビとサソリ)のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、成瀬ら面々は断崖に追いつめられた、やがて絶対絶命のカウントダウン。

 

 

*

 

 

【印象的表現を抜粋 #3】

 


■ 第一章 

悪党たちは、久々に銀行を襲い、小さな失敗をきっかけにトラブルに巻き込まれる。

 


p14
「・・・普通の通行人が簡単に写真や動画を撮るし」 銀行を襲った後の逃走ルートの選択が年々、難しくなっていた。
防犯カメラが設置されている店や街頭カメラについて調べ、逃走車両が映らぬように経路を検討し、どうにか逃げ切れているものの、そのほとんどが雪子任せだった。
p15
「年が経つにつれ、カメラの数は増える。さらに性能は良くなる」「年を取って、腕は落ちていく一方だし」
p20~21
「さっきのミスターが、歩きながらスマホを使って、慎一にぶつかったくせに、怒ってるみたい」「どうも感じが悪いおじさんだよ」
「だからといって、反射的に財布を掏(す)ってくるのはいかがなものか」久遠は取り出した小さなケースを検(あらた)めている。「これがあの人の名刺かな」と一枚取り出した。
火尻正嗣(ひじり・まさつぐ)という週刊誌記者と判明した。
p28
強盗に襲われた銀行での出来事が語られ、警備員が武勇伝よろしく、「警棒を投げつけた」ことを語っている。「私の警棒、強盗の左手に当たったんですよ。
あれは確実にダメージを与えましたし、強盗は手に包帯を巻いているかもしれませんから、確実に、目印になっているはずです」と触れ回っている。
p41
宝島沙耶はあの後すぐに、世間に姿を見せることになった。ロビーで起きた騒動、ファンに発見され、サングラスを取られた事件はそれほど大きなニュースにはならなかったが、
さすがに身を隠すのは限界だと判断したのか、ほとんど日を置かず、記者会見を開き、
「海外映画からオファーが来ていたため、プレッシャーで気持ちが落ち着かず、逃げ出すような形でホテル生活をしていた」と説明をしていた。

p47

「嘘には三種類ある。嘘、大嘘、そして統計だ」
p62
「成瀬には痴漢の仕掛け、雪子には当たり屋、久遠のところには慰謝料の言いがかり、これは偶然ではないな。同時多発不運」

 

 

■ 第二章 

悪党たちは、降りかかる火の粉を払うため、何が起きているかを探るが、払えば払うほど火の粉がまとわりつく。

 


p94
一つ目は、二年前に起きた小さな居酒屋の記事だった。食中毒を出し、子供が亡くなったのだが、その店主がやり玉にあがり、あちらこちらから批判された。
二つ目は、通り魔殺人だった。都内の大通りで深夜、刃物を持った若者が暴れた。二人が亡くなり、一人が負傷し、犯人はすぐに逮捕されたが、火尻はその負傷した被害者に目をつけた。

 


■ 第三章 

悪党たちは、事件の構図に気づくが、相手の後手に回る。

 

 

p123~124
「ホテルの防犯カメラをチェックしても、それらしい人物が、火尻の部屋のほうに行った様子は映っていなかった」
やはりホテル側が情報を漏洩しているのではないか、と疑いたくなったのだろう。
「詳しくは言えないが、私たちにはそういう力があるんだ。とある、情報機関の力のような、CIAやKGBに似た」
「アルファベット三文字の?」「そう。PTA、NGK、ETC。そういった組織の力でね。それはともかく、犯人がエレベーターを降りた痕がない」

p133~134
牛山沙織の両親は離婚していたが、どちらも薬や手術のための費用が必要となった。
せっかく、「昼はOL、夜は風俗嬢。深夜に女一人で歩いているから通り魔に遭ったのだ」という方向で、雑誌記者(火尻)の好奇心を満たしているところに、
「実は、母親が難病で」といった事実を混ぜてしまうと、非難すれば良いのか同情すれば良いのか、みなを混乱させてしまう。

p151~152
「シロアリは蟻の仲間ではないんですよね」「ゴキブリの仲間だからね」網翅目(もうしもく)とはゴキブリとカマキリを合わせた分類のことだ。

p160
「さっき、寄生虫と言ったがね、それもよく言われる。ハイエナともね。ただ、俺に言わせればそれは少し違う。俺は、少し弱った昆虫を、
蟻の群れの中に落としてやるだけなんだ。あとは、蟻がその虫を食い尽くす。群がって、食い散らかして楽しむのは、大勢の、普通の、人間だ。
世の中は、どの人間も誰かの寄生虫なんだ」

 


■ 第四章 

悪党たちは、別の悪党から逃れるために必死に行動するが、予定通りに物事が進まない。

 

 

p176
カジノグループのマンションには、先日、久遠が訪れ、指紋認証のセキュリティがついた部屋を見つけている。
「たぶん、あそこには金があるんだと思う。もしくは顧客情報じゃないかな」。そこから成瀬は計画を発案し、具体的な作戦をみなで練ることになった。

p204
成瀬は言う。「あと三つ数えるうちに来るだろう」「三つ数える前に外へ飛び出した途端、撃たれるんじゃないだろうな」
火尻は昔観た映画の内容を思い出すように言った後で、子供の悪戯に渋々付き合うように「一」と数える。じっくりと足を踏み出すような間をもち、「二」「三」と声に出す。

 

 

◇-----------------------------------------


【伊坂氏に関する私のブログ】 (2012年以降)


▽ 小説

 


「残り全部バケーション」(集英社2012年12月)
「ガソリン生活」(朝日新聞出版2013年3月)
「死神の浮力」(文藝春秋2013年7月)
「首折り男のための協奏曲」(新潮社2014年1月)
「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎2014年9月)
「キャプテンサンダーボルト」(文藝春秋2014年11月、阿部和重との共作)
「火星に住むつもりかい?」(光文社2015年2月)
「ジャイロスコープ」(新潮文庫2015年6月)
「陽気なギャングは三つ数えろ」(祥伝社ノン・ノベル2015年10月)
「サブマリン」(講談社2016年3月) 未読


▽ エッセイ


「仙台ぐらし」(荒蝦夷2012年2月、集英社文庫2015年6月)


▽ アンソロジー(競作短篇小説)

「weather」(PHP研究所2012年3月) 未読
兜シリーズ第2作「Bee」 (宝島社2012年4月)
「逆ソクラテス」(集英社文庫2012年5月) 未読
「太陽のシール」(集英社文庫2012年10月) 未読
「小さな兵隊」(光文社2013年12月) 未読
「イヌゲンソーゴ」(PHP研究所2014年10月) 未読
「スロウではない」(オール讀物2015年8月号)
「if」(朝日文庫2016年1月) 未読  

「祖母のこと」(光村図書出版2016年6月)エッセイ  未読

「一人では無理がある」(新潮文庫2016年11月) 未読

「ルックスライク」(光文社2016年12月) 未読

 


▽ 単行本未収録作品

兜シリーズ第1作「AX」(野性時代2012年1月号)
「月曜日から逃げろ」(yomyom2013年冬号)
兜シリーズ第3作「Crayon」(野性時代2014年2月号)
「二月下旬から三月上旬」(新潮2014年6月号)
兜シリーズ第4作「Drive/イントロ」(野性時代2015年11月号)

「無事これ貴人」(小説新潮2016年3月号) 未読
「シーソーモンスター」(小説BOCvol.1 2016年4月) 未読

 

 


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