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伊坂幸太郎・原作の連作短編集「AXアックス」紹介

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■■ 連作短編集 「AX アックス」

 

KADOKAWA単行本2017年7月刊行

 

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これまで「小説野性時代」を中心に掲載されていた短編集に、書き下ろしを加えた伊坂幸太郎氏の単行本を
偶々、区立図書館でゲットできたので、借りて読み終えた。


伊坂氏お得意の"殺し屋"を題材にしたミステリー小説。


当節、乳幼児を含む肉親を虐待死させる事件、介護・養護施設で虐待死させる事件、オウム真理教・通り魔などのテロリズム、等々の凶悪犯罪が増え続けているにも拘わらず、
加害者の人権(教育刑)ばかりが保護され、刑罰が軽過ぎる理不尽・不合理な刑法体系が大幅改正されない、いわゆる "殺され損" の法治?国家なのである。


彼のジャンルはいわゆる本格ミステリーではないが、往年の"スパイ大作戦"や"必殺仕置き人"を彷彿(ほうふつ)とさせ、勧善懲悪を貫いてくれるライトノベルなのだ。


しかも今回は久し振りに、彼が好んで使用する「TERMINOLOGY」 (術語学、用語法、比喩表現などの意)・・・言葉の明喩(直喩)and/or暗喩(隠喩)が復活していて、小気味好い香りがする。



□ 概要


伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ「グラスホッパー」「マリアビートル」に連なる待望の最新作。

殺し屋「兜(かぶと)」シリーズの6編

・・・タイトルはアルファベットのABCDEFを頭文字としている。

今回の短編集「AXアックス」には、別途単行本として刊行予定の「Driveイントロ」を除く、5編を収録している。

「AX」・・・ KADOKAWA月刊雑誌「小説野性時代」2012年1月号掲載
「BEE」・・・宝島社文庫「ほっこりミステリー」2014年3月刊行
「Crayon」・・・KADOKAWA月刊雑誌「小説野性時代」2014年2月号掲載
「Driveイントロ」・・・KADOKAWA月刊雑誌「小説野性時代」2015年11月号掲載 ⇒ 加筆のうえKADOKAWA単行本を刊行予定。
「EXIT」・・・今回書き下ろし
「FINE」・・・今回書き下ろし



□ 主な登場人物


"兜"こと三宅

・・・殺し屋としての偽名(コードネーム)は「兜」(かぶと、英語で「HELMET」「BEETLE」 )。業界でも一目置かれる超一流の殺し屋。
しかし、極度に妻を恐れる恐妻家であり、普段は文房具メーカーの営業マン。
特定の武器は使わず驚異的な身体能力で相手を圧倒する。標的に対して寝首を掻(か)く真似はしない。公正や公平を重視し互いに同じ土俵の上での殺し合いに努める。
一方、彼は殺しを実行する時には冷静でいられるのに、妻との会話の方が極度に緊張する。
「兜」は殺し屋稼業から足を洗いたくとも、優秀な腕を持つ彼に辞められると、殺しの手配をする医師にとっては都合が悪い。しかし決意が固いと見るや医師は兜を葬り去ろうとする。


妻・・・兜の妻。共働きで朝早くから働いている。言葉の「裏メッセージ」に敏感で、表しかないメッセージに裏を見つける天才、と兜は思っている。

息子・克己・・・兜の一人息子。第一話「AX」では、大学受験を控えた高校三年生。母の機嫌の雲行きが怪しくなると、絶妙なフォローで父を助ける。だが父と母、どちらの味方にもなるので油断大敵。



内科診療所の医師・・・兜の裏稼業の仲介役(元締めに直結している)。都内のオフィス街に診療所を構える医師。カルテに標的の情報を記し、兜とは医療用語に偽装した符牒で仕事のことを話す。「手術」は殺害する行為を指し、「悪性」は標的がプロであること、など。

伊東ちあき・・・内科医の連絡係。ボルダリングジムで兜に近づく。

"ニワトリ"こと佐々木・・・都内の歯科医師。大学時代に投資詐欺集団のバイトをしたり、医師としてカルテの改竄(かいざん)を手伝ったりしたためか、命を狙われ警察官を装った二人組が近づいて来る。

"ハニワ"こと斧寺(おのでら)・・・ニワトリとは千葉の田舎の中学時代に苛められっ子同士。害虫駆除のGUY社作業員。



"鷹"・・・狙撃の名手だが、"魔女の一撃"ことギックリ腰に襲われた殺し屋。

"白(シロ)"・・・自称・鷹の弟子でギックリ腰の鷹に代わって、海ほたるでの殺しを買って出る。

"DIY"(Do It Yourself)・・・鷹に射殺された殺し屋(身代わり死体専門業者)。



◇------------------------------------


■「AX」・・・ KADOKAWA月刊雑誌「小説野性時代」2012年1月号掲載


「AX ~ あなたには、この手術をおすすめします」


□ Terminology


「AX」とは、首切りの斧(おの)、蟷螂(カマキリ)の前脚、"恐妻家" "儚(はかな)い抵抗" の隠喩。


□ あらすじ


「兜」は、凄腕の殺し屋。家では殺し屋というイメージとは全く懸け離れた、妻に頭が上がらない業界一の恐妻家。伊坂氏の小説には恐妻男や浮気男がしばしば登場するが・・・。

「兜」が送る愛と受難の日々。夜中に帰宅して寝ている妻を起こさないように静かに食事をする究極の選択は、魚肉ソーセージ。

高校三年・受験生の息子・克己がまた、呆れるほど一筋縄では行かないのだが、こと兜に対しては父親思いの本当にいい息子で、そんなに兜の妻(自分の母親)に気を遣う必要がないと諭す。

そして兜がこの仕事を辞めたいと考え始めたのは、克巳が生まれた頃だった。

引退に必要な金を稼ぐため仕方なく仕事を続けていた或る日、爆弾職人を軽々と始末した「兜」は、意外な人物から襲撃を受ける。

こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん知らない。殺し屋の元締めは、東京都内のオフィスビルに入居している内科診療所の医師。符牒(ふちょう、秘密コード)をドイツ語でカルテに記して殺人指令する。


◇------------------------------------


■「BEE」・・・宝島社文庫「ほっこりミステリー」2014年3月刊行


「BEE ~ あなたを手術しようとしている人間がいるようです」


□ あらすじ


一見、亭主関白風の営業マンで実は恐妻家という、亭主関白の真逆を体現する男「兜」。恐れる妻も愛する息子も知らない、本当の職業は凄腕の殺し屋。

殺しの仲介業者から、同業者で毒殺専門の殺し屋「スズメバチ」(英語で「HORNET」「WASP」) のメスに狙われていると忠告され大いに警戒する。

「兜」は妻に依頼された自宅にできた蜂の巣の除去を、妻の機嫌が悪くならないようにやらなければならなくなってしまった。

「あなたは、いつもわたしの話、何も聞いてないんだよね」と言われることを恐れる兜。妻の気持ちを忖度(そんたく)して今日中には駆除しなければと切迫し、本物の「BEE 蜂」の退治にアタフタする。

そして警告通りに本物の敵「スズメバチ」のオス・メスが現れる。

だが「スズメバチ」達は、東京発の東北新幹線・はやての車両内で、複数の殺し屋抗争によって何人も殺された事件があり死んだらしい。

ところが、死んだ筈と思っていたが、それはメスだけだったと後で知り警戒心を抱く。結局、宇宙人のような格好の重装備でスズメバチと戦うことになる。


◇------------------------------------


■「Crayon」・・・KADOKAWA月刊雑誌「小説野性時代」2014年2月号掲載


「Crayon ~ 少し、目的の異なる手術です」


□ あらすじ


「兜」は、壁にたくさんのカラフルなホールドが取り付けられている、ボルダリングジムに通っている。シューズ、滑り止めのチョーク、クライミングHelmetなどの道具を着けて、ボルダーをよじ登る。

そのジムが入居しているビルは、「兜」こと三宅が、薬局店主の鈴村== 実はその娘は息子・克己の同級生だった==を、アナフィラキシーショック(多臓器アレルギーショックによる事故死に偽装)で殺害した現場の向かい側に偶々、見つけたジムだった。

一方、ジム会員同士として出会った野々村は、広告デザインの営業マンで自己紹介では営業部での成績はトップだが、互いに無類の恐妻家であることが判明し、しかも娘は、克己と同じ高校の三年同級生・風香と判明したので、二人はパパ友だと意気投合する。

更に、「あの(ボルダリングの)カラフルな石は、クレヨン(Crayon) で描いたみたいですよね」と野々村。娘・風香、息子・克己が幼稚園児の頃、クレヨンで描いた父親の似顔絵が互いに蘇える。このクレヨンの話が、二人の恐妻家にとって共通意識となる。

「兜」は内科診療医を訪ねてカルテに記された殺人指令を受ける。今回の指令内容は、DIY (Do It Yourself、身代わり用の死体、日曜大工イメージで用意せよの意味)。殺人組織から抜け出すためのDIY手配。

「兜」と野々村は、遇々、その場に居合わせた、妊婦の女性と共にマスクで顔を隠した強盗に遭遇する。マスク男はカネを出せと言って包丁を向けたが、本心は妊婦が幸せそうで腹が立っていた。

野々村が怒りを以って馬乗りになり顔面をヤミクモに殴り付けたため、犯人は動かなくなった。「兜」が調べると、殴る前に倒れた時に後頭部を打った事故死だった。

「兜」は、人を死なせて震えている野々村をタクシーに乗せて逃がした後、元締めの内科医に格好の身代わり用死体として処理を依頼する。

事件後、野々村夫妻は離婚し、風香は転校したと克己から知らされる。「兜」と何時か再会する日がやって来るのだろうか?



◇------------------------------------


■「EXIT」・・・今回書き下ろし


「EXIT ~ これをやり遂げれば、引退できます」


□ Terminology

「EXIT」には、抜ける、退場する、終了する、(遠回しに)死ぬ、などの意味がある。



□ あらすじ


「兜」は、殺し屋稼業を辞めたいと頻(しき)りに仲介役の内科診療所医師に訴えていた。

元締めの内科医側は「兜」が足を洗う(EXITする)ことを認めず、殺し実行役から下ろす代わりに関係物品の受け渡し役の仕事を回すことで妥協したかに見えた。

だがしかし、兜の決意が固いと見るや医師は「兜」を葬り去ろうとする。

「兜」が或る工場に品物を受け取りに行った際、ボウガンが仕掛けられている罠に危うく命を落としそうになる。

更に、バスを待っている間の停留所で、4人の刺客に襲われるものの、その格闘時に掌に収まる海外製のミニ銃を獲得した。



その頃、「兜」が表の仕事である文房具メーカー営業マンの三宅として、デパートのテナントである文房具店を訪問した際、デパート警備員の奈野村と親しくなる。

「兜」は彼から中学生の息子のことで相談を持ち掛けられる。息子が父親が深夜の店内を巡回する姿を見学したいとのこと。

奈野村とその息子の求めに応じて、「兜」が深夜の店内巡回を陰から見守っていたところ、実は息子が手引きした中学生たちの盗みの現場を取り押さえる。

中学生たちが逃げ込んだトイレの個室内には男の死体があったのだ・・・。



◇------------------------------------



■「FINE」・・・今回書き下ろし


「FINE ~ お父さんは患者としていらしていましたよ」


□ Terminology


「FINE」は、ラテン語で「終わり」の意。英語の「FINE」「FINAL」「FINISH」などに転じる。 
その他の外国語における類似語・・・「FINE」イタリア語、「FIN」フランス語、「FIM」ポルトガル語、「FINAL」スペイン語・ルーマニア語、など。



□ あらすじ


「兜」の一人息子の克己は、田辺亮二という若者から10年前に亡くなった父親「兜」の遺品を渡される。彼は子供の頃に父に助けられた際に拾っていたのだと言う診療所の診察券だった。診察券の裏側には診察予約日付が列記されており、その最後の日付は奇しくも父が亡くなった翌日になっていた。

克己は診察予約の前日に父が自殺したことに違和感を覚え、自殺自体に疑惑を抱いて、彼は診療所に出向き医師と面会するが有力な情報は得られず。

やがて彼は、父の部屋を整理した際に1本の鍵を見つける。或る鍵職人に何処の錠を開けるためかと調べてもらう一方で、先日訪れた診療所の医師と会い父の部屋から手掛かりになりそうな鍵が出て来たことを仄(ほの)めかす。

だが、医師と別れた直後に、克己は走って来たバイクに鍵の写真の入ったバッグを盗まれる。幸い、バイクの転倒事故でバッグを取り戻せたものの、医師を不審に思い始める。

やがて鍵職人から、鍵がどこの建物か分かったという電話が入り、克己は当のマンションに向かう。

ところが、その途中に医師が現れ拳銃を克己に突き付け、マンションの中に一緒に入り、部屋の中に入ろうとした時、管理人から呼び止めらる。

克己は家族の者だと名乗るが、管理人は部屋の主から家族には絶対部屋の中に入れさせるなと厳命されていると主張する。医師はそれならばと家族以外の者ならばいいだろうとドアを開けると、その瞬間!-----。

「兜」の父親としての家族愛が露わとなる章だ。



◇------------------------------------


<番外>


■「Driveイントロ」・・・KADOKAWA月刊雑誌「小説野性時代」2015年11月号掲載 ⇒ 加筆のうえKADOKAWA単行本を刊行予定。


□ あらすじ


「兜」こと三宅は、表の顔が文房具メーカーの営業マン。一人息子の克己が生まれたのを機に殺し屋稼業を辞めたいと思ったが、業界から足を洗うには大金が必要なため已むなく続けている。

一方、ボルダリングジムで一緒だった二十代後半の女性との浮気を、妻に疑われている。だがそれは濡れ衣(ぬれぎぬ)なのだ。

それでも高校三年生の克己は、希望の大学に合格したことを祝って家族三人、杉並区の自宅からアクアライン経由で千葉の鴨川シーワールドまで久しぶりのDriveに出掛ける。

しかし、首都高に乗る直前に、殺しの仲介者である都内の内科診療所の医師から、メールで不穏な仕事が飛び込んで来る。「大井パーキングエリアに立ち寄ること。渡すものがある」と。大井PAに浮気相手と疑われている女性が現れ、伊東ちあきと名乗って「海ほたるに現れる男を殺せ」との伝令が-----。



◇------------------------------------


<参考>


★ 伊坂幸太郎氏の著作と私のブログ(2014年~)


「首折り男のための協奏曲」(新潮社2014年1月、新潮文庫2016年11月)
「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎2014年9月、幻冬舎文庫2017年8月)
「キャプテンサンダーボルト」(阿部和重との共作、文藝春秋2014年11月、文春文庫2017年11月)
「火星に住むつもりかい?」(光文社2015年2月、光文社文庫2018年4月)
「ジャイロスコープ」(新潮文庫2015年6月)
「陽気なギャングは三つ数えろ」(祥伝社ノン・ノベル2015年10月、祥伝社文庫2018年9月)
「サブマリン」(「チルドレン」の続編、講談社2016年3月、講談社文庫2019年4月)
「AXアックス」(KADOKAWA2017年7月)
「ホワイトラビット」(新潮社2017年9月)
「クリスマスを探偵と」(河出書房新社2017年10月)
「フーガはユーガ」(実業之日本社2018年11月) 未読
「シーソーモンスター」(中央公論新社2019年4月)
「クジラアタマの王様」(NHK出版2019年7月)
 

 

 

 

 


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